Document#4.1 交通・商業・労働の再配置
4.1.-1 ピークレス前提の都市動線
27時間多時間群文明における都市交通設計は、「通勤ラッシュ」「帰宅ラッシュ」といった単一時刻への需要集中を前提としない。 27時間多時間群構造のもとでは、同一都市に複数の活動ピークが重なり合わずに存在するため、 都市動線は常時可変・常時部分稼働を前提とした設計が求められる。
具体的には、幹線交通・支線交通・生活動線は時間帯ごとに優先度が動的に切り替えられる。 交通容量そのものを増やすのではなく、「どの時間群に、どの流れを通すか」を制御対象とする。 信号制御、レーン配分、駅構内の動線誘導は、時刻ではなく時間群を基準に最適化される。
公共交通は、全車両が同一ダイヤで走ることはない。 各車両は特定の時間群に主対応する形で運用され、同一路線上に複数の「位相の異なるダイヤ」が存在する。
都市中心部においても、従来型の「昼間集中・夜間空洞化」は発生しない。 商業・行政・居住が時間的に分散配置されているため、 中心部は常に一定密度で活動しているが、 その構成要素は時間帯によって入れ替わる。 結果として、過密・閑散の振幅は小さく、インフラ疲労も抑制される。
歩行者動線についても同様である。 大規模ターミナルや公共空間では、 特定方向への一斉流動を前提とした設計(広い一方向通路など)は採用されない。 代わりに、複数の緩やかな流れが共存するネットワーク型動線が基本となる。 これは災害時における局所封鎖・再誘導の容易さも同時に満たす。
重要なのは、本文明において「混雑」は設計失敗として扱われる点である。 一時的な過密が発生した場合、それは需要の想定誤りではなく、 時間群割当・動線制御・職能配置のいずれかが破綻している兆候と解釈され、速やかに制度側の再調整が行われる。
4.1.-2 時間帯別職能配置
27時間多時間群文明における職能配置は、従来の「同時稼働」を前提とした人員配分を採らない。 本節では、文明が定義する時間帯ごとに、必要とされる職能を段階的かつ重層的に配置する設計思想を示す。
各時間帯は、活動密度・判断要求・対外接続頻度といった複数の軸で性質づけられ、それぞれに適合する職能が優先的に割り当てられる。 例えば、高度な判断や即応性を要する時間帯には、意思決定・調停・監視といった職能が厚く配置され、 一方で低活動帯には、保守・点検・準備的作業が主となる。
重要なのは、職能が個人に固定されない点にある。 構成員は複数の職能を持ち、自身が所属する時間群および当該時間帯の位相に応じて、その時点で最適な役割を選択・提示される。 これにより、職務の集中や偏在を防ぎ、文明全体としての負荷平準化が実現される。
また、時間帯別職能配置は、他の時間群との非同期的連携を前提として設計される。 ある時間帯で発生した業務や判断は、別の時間帯に属する群へ引き継がれることを前提に分解され、 「完結させる」ことよりも「次につなぐ」ことが重視される。
この配置モデルにより、文明は常に稼働し続ける状態を維持しつつも、構成員個々に過剰な負担を課すことなく、時間と職能の流動的な再編を可能とする。